
警備会社の営業所や待機所には、ほぼ例外なく「護身用具」が常備されています。ドラマやアニメ、映画の影響で「警備員は武器を装備して警戒にあたっている」というイメージを持つ方もいるかもしれませんが、実際の現場では滅多に携帯・使用することはありません。
なぜ普段の現場では使わないのか、そして法律上どのような厳しいルールが定められているのか。今回は、警備を行う上で知っておくべき「護身用具」の規格や管理体制のリアルを解説します。
結論:なぜ現場で護身用具を使わないのか?
理由は極めて単純明快で、「危険だから」です。護身用具は相手を制圧・威嚇するための強力な道具であり、万が一の誤認や過剰防衛、現場での取り落としによる事故を防ぐため、通常の交通誘導や施設警備で安易に持ち出すことはありません。
また、護身用具は会社内でも厳重な施錠管理が義務付けられており、見栄えのために事務所に飾るようなことも一切ありません。新人警備員の場合、初任研修で練習用の柔らかい模造品を扱う程度で、「本物は一度も見たことがない」という隊員も珍しくありません。
現場プロの視点
警備員の役割は「戦うこと」ではなく「事故や事件を未然に防ぐこと」です。威嚇や制圧の道具に頼るのではなく、規律ある立ち居振る舞いや的確な合図、周囲の死角をなくす動態監視こそが最大の防犯・安全対策になります。
警備員が扱う護身用具の種類と細かすぎる規格
警備業法では、警備員が携帯できる護身用具の形状、長さ、重さがミリ単位・グラム単位で厳格に定められています。
1. 警戒棒(けいかいぼう)
警察官が身につけている特殊警棒と同様の用具です。以前は「長さ60cm以下、直径3cm以下、重さ320g以下の円棒」と定められていましたが、法改正により現在は長さごとに細かく重量制限が設定されています。
| 長さの基準 | 規定重量 |
|---|---|
| 30cm超 〜 40cm以下 | 160g以下 |
| 40cm超 〜 50cm以下 | 220g以下 |
| 50cm超 〜 60cm以下 | 280g以下 |
| 60cm超 〜 70cm以下 | 340g以下 |
| 70cm超 〜 80cm以下 | 400g以下 |
| 80cm超 〜 90cm以下 | 460g以下 |
※法改正前の古い警戒棒は重量が重いため、当社では実務用ではなく研修用として保管しています。また、雑踏警備などで部隊を編成する現場では原則として携帯できません(公営競技場など例外を除く)。
2. 警戒杖(けいかいじょう)
一見すると単なる木の棒のように見えますが、立哨警備などで使われる護身用具です。資格講習等で実際に扱うと非常に重みがあり、強い威力を持ちます。
| 長さの基準 | 規定重量 |
|---|---|
| 90cm超 〜 100cm以下 | 510g以下 |
| 100cm超 〜 110cm以下 | 570g以下 |
| 110cm超 〜 120cm以下 | 630g以下 |
| 120cm超 〜 130cm以下 | 690g以下 |
警戒杖は使用できる現場が極めて限定されており、空港、原子力関係施設、火力発電所等の重要電力施設、石油備蓄基地、大使館・政府関係施設、火薬・毒物取扱施設、貴重品運搬警備、公営競技場などに限られています。
3. 刺又(さすまた)
不審者と安全な距離(間合い)を確保し、壁面や地面に押し当てて動きを封じるためのU字型の道具です。街中で警備員が持ち歩くことはありませんが、万が一の侵入者に備えて事業所や施設内に常備されています。
所持・携帯は事前届出制!違反すれば罰金刑も
警備員が護身用具を携帯・使用するには、警備業法第17条第2項の規定に基づき、あらかじめ都道府県公安委員会(所轄の警察署経由)へ届出を行わなければなりません。

具体的には、使用する前日までに規定の様式に沿って届け出る必要があり、無届で携帯した場合は30万円以下の罰金刑が科せられます(警備業法第58条)。
保管方法についても厳格に規定されており、必ず鍵のかかる専用保管庫に格納し、管理台帳で入出庫を記録しなければなりません。「警戒棒が1本見当たらない」といった事態になれば、誰の手にあるか分からない危険物が地域に出回ることになり、重大な治安上の危機につながります。そのため、警備会社には極めて重い管理責任が課されています。



