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声かけの大切さを理解しよう

声かけの大切さを理解しよう

1号警備(施設警備)であれ、2号警備(交通誘導)であれ、警備員の仕事は「監視」や「制止」だけではありません。真にプロフェッショナルな警備サービスにおいて、最も強力かつ基本的、そして高度なスキルとなるのが**「声掛け」**です。

声掛けは、単に情報を伝える行為ではなく、セキュリティを構築し、トラブルを未然に防ぎ、安心感を創造するための重要なツールです。五輪警備保障では、警備員一人ひとりがこの「声掛け」のスキルを磨くことが、質の高い警備サービス提供の要だと考えています。

本稿では、警備員としての声掛けが持つ多面的な重要性と、相手の行動を促し、不快感を与えないための効果的な「声の出し方」「言葉の選び方」について、深掘りして解説します。


 

第1章:なぜ「声掛け」が警備の最重要スキルなのか?(多面的な重要性)

警備員が発する一言には、静的な監視カメラやセンサーにはできない、動的で心理的な効果があります。声掛けの重要性は、主に以下の3つの側面から理解できます。

 

1-1. 犯罪の未然防止(抑止力)

 

警備員の声掛けは、不審者や犯罪を企図する者に対し、即座に「見られている」というプレッシャーを与える最も強力な抑止力となります。

  • 目線の交換と確認: 不審な行動をしている人物に対して「何かお探しですか?」「ご用件をお伺いします」と声を掛けることで、相手は「自分の存在が認識された」と感じます。これにより、犯行をためらわせる効果が生まれます。
  • 警戒態勢の可視化: 警備員が積極的に声を出している現場は、「この施設は警備がしっかりしている」というメッセージを周囲に発信し、潜在的な犯罪者を遠ざけます。

 

1-2. トラブル・事故の予防(安全管理)

 

声掛けは、多くの事故やトラブルを未然に防ぐための、人間によるアラーム機能です。

  • 危険の事前回避: 工事現場で「足元にご注意ください」、商業施設で「階段の手すりにおつかまりください」といった一言は、利用者の注意力を高め、転倒や接触などの事故を回避させます。
  • スムーズな誘導: 交通誘導警備では、車両や歩行者に対して的確な指示を声で伝えることで、混乱なく安全に通行させることができます。声掛けがない交通誘導は、事故のリスクを劇的に高めます。

 

1-3. 施設・企業の印象向上(ホスピタリティと安心感の提供)

 

声掛けの仕方一つで、警備員は「怖い人」「邪魔な人」から「親切な人」「頼れる人」へと印象を変えることができます。

  • 安心感の醸成: 利用者や住民にとって、警備員の「おはようございます」「お疲れ様です」という挨拶や、困っている時に掛けてくれる優しい一言は、施設に対する安心感と信頼感を高めます。
  • 企業の顔としての役割: 施設警備の警備員は、来訪者が最初に接する「企業の顔」となることが多く、質の高い声掛けは、その企業のホスピタリティレベルを示す指標となります。

 

第2章:声掛けを成功させるための心理的アプローチ

効果的な声掛けとは、相手に不快感を与えず、こちらの意図を正確に理解させ、行動を促すことです。これには、技術だけでなく、相手の心理を考慮したアプローチが必要です。

 

2-1. 相手の感情と状況を「読む」

 

声掛けのタイミングと内容は、相手の状況によって変える必要があります。

状況読むべきこと声掛けのトーンと内容
迷っている人不安、困惑柔らかく、共感的に。「何かお探しですか?お手伝いしましょうか。」
不審な行動緊張、焦り、抵抗毅然と、しかし丁寧に。「お客様、申し訳ありません。ご用件をお伺いできますか。」
危険な行動無意識、注意散漫強い声で、簡潔に。「危ない!」「止まってください!」(即時行動を促す)
一般の通行人日常、無関心明るく、爽やかに。「いってらっしゃいませ!」「こんにちは!」(安心感の提供)

 

2-2. 強い言葉は避け、「依頼」と「理由」を伝える

 

警備員が命令口調や強い言葉を使うと、相手は反射的に反発しやすくなります。声掛けは、強制ではなく依頼の形を取ることが基本です。

  • NG例(命令): 「ここに立ち止まるな!」「すぐ移動しろ!」
  • OK例(依頼と理由): 「**申し訳ありません。**安全のため、こちらで立ち止まらずご移動をお願いできますでしょうか。」
  • 「クッション言葉」の活用: 「恐れ入りますが」「お忙しいところ申し訳ありませんが」といったクッション言葉を入れるだけで、受ける印象は大きく和らぎます。

 

2-3. 「誰に」話しかけているかを明確にする

 

混雑した場所や複数の人がいる場所で曖昧な声掛けをすると、誰も反応せず、かえって混乱を招きます。

  • 指差し確認の徹底: 交通誘導であれば、誘導棒や手のひらで明確に対象のドライバーや歩行者を指し示してから声を掛けます。
  • 目線の固定: 声を掛ける相手の目を見て、その人にだけ話しかけていることを伝えることで、指示の浸透率を高めます。

 

第3章:プロが実践する効果的な「声の出し方」と「発声技術」

 

声掛けの効果を最大化するためには、内容だけでなく「声」そのものをコントロールする技術が必要です。

 

3-1. 声の「トーン」と「高さ」

 

トーンは、声の印象の大部分を決定づけます。

  • 低いトーン(信頼と落ち着き): 低く落ち着いたトーンの声は、相手に安心感と信頼感を与え、緊急時にもパニックを抑える効果があります。警備では、高い声よりも低い声で話すことを意識しましょう。
  • 感情のコントロール: 怒りや苛立ちを声に乗せないことが重要です。どんな状況でも、冷静で穏やかなトーンを維持する訓練が必要です。

 

3-2. 声の「大きさ」と「張りの出し方」

 

声の大きさは、状況に応じて的確に使い分ける必要があります。

  • 緊急時の大声: 事故や危険を知らせる大声は、腹筋を使い、喉を締め付けずに出す訓練が必要です。長く、聞き取りやすい、遠くまで通る声を意識します。
  • 通常時の適切な音量: 施設内では、周囲の迷惑にならないよう、相手に届く必要最低限の音量で、しかし「ハリ」のある声で話します。ハリのある声は、自信とプロ意識を伝えます。

 

3-3. 話す「スピード」と「間(ま)」

 

  • ゆっくり話す: 早口は相手に焦りや不安を与えます。特に指示や注意事項を伝える際は、普段の会話よりも意識的にゆっくり話すことで、内容の理解度を上げます。
  • 間(ま)を取る: 重要な情報を伝える前後で一呼吸置くことで、相手の注意を引きつけ、メッセージの重要性を強調できます。

 

3-4. マスク越しでも伝わる発声法

 

昨今、マスク着用での業務が増えています。マスクは声を吸収し、表情を隠してしまいます。

  • 口角を上げる(笑顔の発声): 見えない口元でも、口角を上げて話すことで、声のトーンが明るく、親切に聞こえます。
  • ジェスチャーを添える: 笑顔が見えない分、会釈を深くする、手を添えるなど、非言語のジェスチャーを大きくすることで、声掛けの意図を補強します。

 

第4章:当社が重視する「状況別」声掛け応用テクニック

 

具体的な現場での声掛け応用例と、特に「結論:逃げる」という危機管理の基本を踏まえた上での声掛けの役割を解説します。

 

4-1. 交通誘導警備での「先読みの声掛け」

 

交通誘導では、事故を防ぐために「予測される危険」を先回りして伝えます。

  • (例)停止中のドライバーへ: 「右折(左折)の際、横断者が多いので特にお気を付けてお進みください!」
  • (ポイント) 単に「進んでください」だけでなく、具体的な注意点理由を添えることで、ドライバーの警戒心を引き出します。

 

4-2. 不審者・トラブル初期対応での「抑止の声掛け」

 

結論として「逃げる」判断を下す前に、声掛けによって事態を沈静化させることが試みられます。ここで重要なのは、「逃げるための時間稼ぎ」と「状況証拠の確保」です。

  • (例)挙動不審者へ: 「お客様、**何かお困りですか?**私、警備員ですが、お手伝いできることはありますか?」
  • (ポイント) 強い制止ではなく、「困っている人」として接することで、相手の警戒心を一瞬緩ませ、こちらの接近を許容させる可能性があります。この声掛けは、相手の反応を観察し、危険度を測るための初期診断となります。
  • 危険を察知した場合の最終声掛け: 「(応援を呼びながら)ただちに警察に通報します。これ以上、施設内に留まることはできません!」と毅然と伝え、速やかに距離を取る(結論:逃げる)ための準備に入ります。

 

4-3. 施設・巡回警備での「挨拶の質」向上

 

最も頻繁に行う「挨拶」は、最高の声掛け訓練であり、抑止力にも繋がります。

  • 立ち止まって挨拶: 巡回中でも、挨拶をする際は立ち止まり、相手の方を向いて丁寧に行います。
  • 一歩踏み込んだ挨拶: 「おはようございます。今日は寒いですね、お気を付けて」「お疲れ様です。お忘れ物はございませんか」など、状況を反映させた一言を加えることで、挨拶が形式的なものでなくなり、顧客満足度が高まります。

 

まとめ:声掛けは「心で話す」警備の技術

 

警備員としての「声掛け」は、マニュアル通りに言葉を発することではありません。それは、現場の状況、相手の心理、そして危険度を瞬時に判断し、最適な「声」と「言葉」で対応する、極めて人間的で高度な技術です。

五輪警備保障は、日々の訓練を通じて、警備員が単なる「監視役」ではなく、**「安心を設計するコミュニケーションのプロ」**となれるよう指導しています。

声掛け一つで、事故は防げ、トラブルは沈静化し、お客様の笑顔が生まれます。

今後警備の仕事を目指す方、現役の警備員の方も、この「声掛け」のスキルを磨き、安全と信頼を守るプロフェッショナルとして活躍されることを願っています。

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