命を救う最初の一歩:119番の日だから考える「救急車を呼ぶときに大切なこと」

11月9日は、日本の緊急通報用電話番号にちなんだ「119番の日」です。
1987年に当時の自治省消防庁によって制定されたこの日は、国民の消防や防災に対する理解を深め、万が一の事態に備え意識を高めることを目的としています。
「119番」は、火災や救急の際に一刻を争う対応をスタートさせる命のホットラインです。しかし、その緊急性を理解しつつも、「本当に救急車を呼ぶべきか?」「どう伝えればいいのか?」と、いざという時に戸惑ってしまう人は少なくありません。
特に近年、救急車の出動件数は年々増加しており、本当に重症で緊急性の高い患者さんへの到着が遅れてしまうという問題も指摘されています。
そこで本記事では、「119番の日」を機に、救急車を適正かつ迅速に利用するために、私たちが知っておくべき**「救急車を呼ぶときに大切なこと」**を、プロの視点と公的な情報に基づいて、深く掘り下げて解説します。

第1章:「迷い」を断ち切る!救急車を呼ぶべき適切な判断基準
救急車を呼ぶべきか迷う「判断の遅れ」は、命に関わる最悪のケースにつながります。かといって、緊急性の低い症状で安易に要請すれば、本当に必要な人への到着が遅れる原因となります。
ここでは、総務省消防庁や厚生労働省が示す情報を基に、「迷わず呼ぶべき症状」と「相談を検討すべき症状」を明確にします。
1. 迷ったら「即座に119番」を要請すべき緊急性の高い症状
以下の症状が見られる場合、一刻を争う重大な病気やケガの可能性があるため、迷わず119番通報が必要です。
| 症状が出ている部位 | 具体的な症状の例 |
| 意識の障害 | 意識がない(返事がない)、呼びかけへの反応が鈍い、朦朧としている、言動がおかしい、急にぐったりした |
| 頭部 | 突然の激しい頭痛(「今までに経験したことのない」痛み)、頭を強く打って出血が止まらない、けいれんが止まらない |
| 胸部 | 胸の中央が締め付けられるような痛みや圧迫感が2~3分以上続く、急な息切れや呼吸困難、唇の色が紫色(チアノーゼ) |
| 顔面・脳機能 | ろれつが回らない、突然のしびれ、片方の腕や足に力が入らない、片方の顔がゆがむ、周りが二重に見える |
| 腹部 | 突然の激しい腹痛が持続する、血を吐く(吐血)、便に血が混ざる、または真っ黒い便が出る |
| けが・やけど | 大量の出血を伴うけが(圧迫しても止まらない)、広範囲(手のひらサイズ以上)のやけど、交通事故・転落で強い衝撃を受けた |
| 小児特有の症状 | 41.5℃以上の高熱がある、けいれんが止まらない、顔色が明らかに悪い、生後3ヶ月未満の乳児で38℃以上の熱がある |
これらの症状は、脳卒中、心筋梗塞、重度の外傷など、数分が生死を分ける状態を示していることが多いため、迷う時間は一切ありません。
2. 迷った時のもう一つの選択肢「救急安心センター事業(#7119)」
緊急性があるか判断に迷う場合や、応急手当の方法を知りたい場合に利用すべき電話相談窓口が、**「救急安心センター事業(#7119)」**です。
これは、医師や看護師、訓練を受けた相談員などが、症状の緊急性を判断し、**「すぐに救急車を呼ぶべきか」「翌日以降に病院を受診すべきか」「家庭で様子を見るべきか」**などを助言してくれるサービスです。
| サービス | 電話番号 | 役割 |
| 救急安心センター事業 | #7119 | 症状が軽度か重度か判断に迷う場合の相談窓口。適切な医療機関の案内も行う。 |
| 小児救急電話相談 | #8000 | 子どもの急病やケガに関する相談窓口。夜間・休日の利用が中心。 |
これらの窓口を適切に利用することで、真に緊急性の高い事態を避けつつ、救急車の不適切な利用を減らすことができます。
第2章:命を救う「通報のプロトコル」:119番で伝えるべき重要情報
「119番」に電話をかけた後、通報者がどれだけ冷静に、正確に情報を伝えられるかが、救急隊の到着時間と、現場での処置の的確さを左右します。
通報時には、消防の指令室の職員が質問をしてきますが、これらの質問にはすべて重要な意味があります。質問を遮らず、落ち着いて以下の3つの核となる情報を順序立てて伝えることが大切です。
1. 「火事ですか?救急ですか?」を明確に伝える
電話がつながったら、まず「救急です」とハッキリ告げます。この一言で、指令室の対応が救急隊派遣のモードに切り替わります。
2. 「場所」を正確に伝える:救急車は住所から出動する
救急車は、通報者が住所を伝えた時点で、最も近い場所から出動を開始します。そのため、「どこで何が起こっているか」を伝えることが、時間短縮の最大の鍵です。
- 正確な住所:**「〇〇市〇〇町〇丁目〇番地」**まで正確に伝えます。
- 目標物:住所が分からない場合や、現場が分かりにくい場所(公園、工事現場、道路上など)の場合は、**「〇〇(コンビニ名)の向かいの交差点」「〇〇(駅名)から東へ100mの工事現場」など、救急隊が遠くからでも確認できる目標物(ランドマーク)**を伝えます。
- 携帯電話の場合の注意:携帯電話から通報すると、場所が特定されにくい場合があります。市町村名から伝え、住所が分からない場合は、現在地周辺の目標物を伝えます。また、通報後もかけ直しの可能性があるため、電源は切らず、すぐに電話に出られる状態にしておくことが重要です。
3. 「症状」と「人」の情報を具体的に伝える
救急車が出動した後、指令室の職員は引き続き、症状の深刻度や必要な装備を判断するための情報を聞き取ります。
- 「誰が」どうしたのか:傷病者の年齢(重要)、性別、「病気」「ケガ」「交通事故」の別を伝えます。年齢は、小児科医が必要かなど搬送先の病院選定に直結します。
- 「どのような症状か」:「胸が苦しい」「意識がない」「頭から血が出ている」など、具体的な症状を簡潔に伝えます。
- 持病・薬:**「持病はありますか?」「普段飲んでいる薬はありますか?」**という質問には、分かる範囲で答えます。これは、病院での治療方針を決定する上で極めて重要な情報です。
第3章:救急車を「呼ぶ前」と「待っている間」にすべき準備と応急手当
通報が完了しても、救急車が到着するまでの数分間は、傷病者にとって非常に重要です。この間に、通報者が適切な準備と応急手当を行うことで、救命率やその後の治療を大きく改善できます。
1. 救急車が来るまでに必ず「用意」しておくべき5つのアイテム
救急隊が到着してから慌てて探し始めると、時間のロスになります。すぐに持ち出せるよう、以下のものをまとめておきましょう。
- 保険証・診察券:搬送先病院での手続きに必須です。
- 普段飲んでいる薬:特に持病がある方は、**「お薬手帳」**または現物の薬を全て持参します。これが病院での治療の基盤情報となります。
- お金:病院の診察代や、帰宅時の交通費(自家用車以外で搬送される場合)に必要です。
- 靴:家にいる場合でも、病院内や帰宅時に必要になるため、すぐに履ける靴を用意します。
- (乳幼児の場合):母子健康手帳、紙おむつ、ほ乳瓶、タオルなど。
2. 救急隊の到着を早める「お迎え体制」
救急隊は、到着直前に電話で再確認の連絡をくれることがあります。その際に、次のことを伝えておくとスムーズです。
- 目印に出る:できれば誰か一人が玄関や建物の入り口、夜間なら懐中電灯を持って外に出て、救急車を誘導します。集合住宅なら、何階のどの部屋か、エレベーターはどこにあるかなどを伝えます。
- 道路状況の確保:家の前の道路が狭い場合は、救急車の邪魔にならないよう、自家用車などを移動させておきます。
3. 指令員の指示による「応急手当」
通報中に、指令室の職員が「救急車が来るまでの間、心臓マッサージ(胸骨圧迫)をしてください」「出血している箇所を強く圧迫してください」など、応急手当を指導する場合があります。
- 指示に従う:これは、救急隊が到着するまでの間の命綱となります。指示された応急手当は、できる限り実施します。
- 傷病者の体温管理:傷病者の衣服が濡れていたり、顔色が悪い場合は、毛布や衣類などで体温が逃げないように保温します。ショック状態にある場合、体温の維持は非常に重要です。
- 体位(姿勢)の管理:傷病者が最も楽な姿勢(仰向け、横向きなど)にして安静を保ち、呼吸がしやすいか確認します。特に意識がない場合は、誤嚥を防ぐために顔を横向き(回復体位)にします。
まとめ:「119番の日」に誓う、命への責任感
「119番の日」は、私たちが緊急通報システムに頼るだけでなく、通報する側の責任を改めて考える機会です。
救急隊の活動は、年々過酷になっています。その貴重な資源を、本当に命に関わる人のために最大限活用するためには、私たち一人ひとりの**「適切な判断力」と「冷静な通報能力」**が不可欠です。
- 判断に迷ったら「#7119」へ:救急車を呼ぶべきか迷う段階で、すぐに#7119に相談することで、不要な要請を減らし、かつ必要な医療へのアクセスを逃しません。
- 通報時は「住所と症状」を簡潔に:通報のプロトコルを守り、特に「場所」と「年齢・症状」を正確に伝え、到着までの時間を短縮することが、最大の救命行為となります。
- 到着前の準備を怠らない:保険証やお薬手帳など、救急隊到着後にすぐに渡せる準備をしておくことも、病院での治療開始を早める重要な協力です。
私たち市民が「命のホットライン」を正しく、そして賢く使うことが、日本の救急医療体制全体を守ることにつながります。11月9日を機に、ご家族や職場の仲間と「もしも」の時の行動を確認しあいましょう。


