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介護施設に施設警備が必須な理由

介護施設に施設警備が必須な理由

介護施設、特に高齢者福祉施設は、入居者にとって「第二の我が家」であり、安らぎと尊厳が守られるべき場所です。しかし、現代社会において、残念ながらこの「聖域」が常に安全であるという神話は、もはや通用しません。

報道される痛ましい事件や、内部で発生する盗難・トラブルの事例は、介護施設の安全対策が「善意と献身」といった精神論だけでは限界を迎えていることを明確に示しています。高齢化が急速に進む中、施設の安全は、単なる運営上の課題ではなく、利用者の生命と尊厳に関わる最重要インフラとして捉え直す必要があります。

本稿では、なぜ介護施設に専門的な施設警備が必要なのか、その多面的な理由を詳細に掘り下げ、現在の日本の介護現場が抱える深刻な課題と、その解決策としての警備の役割について考察します。


第1章:介護施設の抱える「三つの脆弱性」

 

介護施設は、その性質上、他の施設にはない特有の脆弱性を抱えています。この脆弱性こそが、専門的な警備を必須とする最大の理由です。

 

1. 身体的・精神的に脆弱な利用者の存在

 

介護施設の入居者の多くは、加齢や認知症、疾患により、自己防衛能力が低下しています。

  • 危険回避能力の欠如: 不審者の侵入や異常事態を察知し、自力で回避したり通報したりすることが困難です。これは、悪意を持つ者にとって格好の標的となり、被害が深刻化しやすい状況を生み出します。
  • 財産保護の困難さ: 認知症などの理由で自己の財産管理が難しい利用者が多く、外部からの窃盗犯だけでなく、内部の不心得者による金銭・貴重品の盗難リスクも高いです。実際に、入居者の預かり金や私物が職員や元職員によって盗まれる事件が後を絶ちません。
  • 内部事故リスクの高さ: 徘徊による行方不明、転倒・転落、誤嚥など、生命に関わる内部事故が常に発生するリスクがあります。警備システム(センサーや監視カメラ)の導入は、これらの事故の早期発見と迅速な対応に直結します。

 

2. 「開かれた施設」と「防犯」のジレンマ

現代の介護施設は、地域に開かれ、家族やボランティア、医療関係者など、多くの外部関係者が出入りすることが推奨されています。

  • 入退館管理の複雑化: 人の出入りが多い分、誰がいつ、何のために施設内にいるのかを完全に把握することは、介護職員だけでは極めて困難です。「顔見知りだから」と安易に立ち入りを許してしまうことで、不審者の侵入リスクが高まります。
  • 夜間・休日の手薄な体制: 介護職員の配置基準が厳しく定められる夜間や休日、特に深夜から早朝にかけては、施設の警備体制が最も手薄になる時間帯です。過去の侵入窃盗事件の事例を見ても、「夜間警戒が甘い」「出入り口が狙いやすい」といった供述が多く、まさに施設の弱点を突かれています。

 

3. 介護職員の「専門業務外負担」

 

介護職員は、専門性の高いケアの提供にその時間と労力を集中すべきです。しかし、現状では「防犯カメラの監視」「夜間の施錠確認」「不審者対応の初動」といった警備業務に近い役割も担わざるを得ません。

  • 集中力の分散: 警備や見守りといった緊張を伴う業務を兼務することで、本来の介護業務に対する集中力が分散し、結果的にケアの質が低下したり、事故やヒヤリハットの原因となったりするリスクが高まります。
  • 専門性の不足: 介護職員は防犯・防災のプロではありません。万が一、不審者が侵入した際、専門的な訓練を受けていない職員が身の安全を確保しつつ、利用者を守り、適切に対応するのは非常に困難です。

 

第2章:施設警備が提供する多角的な「安心」

 

施設警備の導入は、単に泥棒を防ぐだけでなく、介護施設全体に多角的な安心と付加価値をもたらします。

 

1. 犯罪の「抑止力」と「証拠保全」

 

プロの警備員が常駐または巡回することは、不審者や犯罪者に対して最も強力な「見せる抑止力」となります。

  • 水際対策: 受付での厳格な入退館管理と丁寧な来訪者対応は、犯罪を水際で防ぐための第一の防波堤です。
  • 早期発見と即応: 防犯カメラやセンサーが異常を感知した場合、警備会社や警備員は直ちに状況を確認し、必要に応じて警察への通報や現場への急行といった迅速な初動対応をとることができます。
  • 内部不正の抑止: 職員による入居者の貴重品盗難や、不適切なケア(虐待)といった内部不正に対しても、監視カメラや厳格な入退室管理システムは大きな抑止力となります。また、万が一事態が発生した場合、映像記録は客観的な証拠となり、問題の早期解決と再発防止に不可欠です。

 

2. 介護現場の「業務効率化」と「質の向上」

 

警備業務を専門家に委託することで、介護職員は本来の業務に集中できます。

  • コア業務への回帰: 夜間の施錠確認、緊急時の施設外周の確認、不審者対応マニュアルの作成・訓練といった警備業務を外部に委託することで、介護職員は「利用者へのケア」という本来の業務にエネルギーを注ぐことができます。
  • ICT連携による負担軽減: 警備会社が提供する最新のセンサーやAI監視システムは、転倒リスクが高い利用者の見守りや、徘徊による離設防止にも活用できます。これにより、介護職員は物理的な見守りから解放され、より多くの時間を質の高い対話や個別ケアに充てられるようになります。
  • 第三者による客観的な視点: 警備員という第三者が施設内に存在することで、施設運営におけるセキュリティ面やリスク管理について、客観的な意見や改善提案を得ることができます。

 

3. 家族と地域への「信頼の担保」

 

安全が担保されている施設であることは、入居者とその家族にとって最大の安心材料です。

  • 選ばれる施設へ: 専門的な警備体制を確立していることは、施設選びにおいて大きなアドバンテージとなります。「大切な家族の生命と財産を預けるに値する施設」という信頼感を地域や家族に与えます。
  • 防災体制の強化: 火災や自然災害が発生した際、訓練された警備員は、介護職員と連携し、避難経路の確保、利用者の避難誘導、外部との通信確保など、施設のBCP(事業継続計画)の実行において重要な役割を果たします。

 

第3章:専門警備導入の課題と解決に向けた動き

施設警備の必要性は明らかである一方で、その導入には大きな壁が存在します。

 

課題1:高額なコストと介護報酬の制約

 

最も大きな課題は、費用対効果です。警備会社の常駐警備は高額であり、特に人手不足で人件費が高騰している現在、経営を圧迫します。介護報酬の枠組み内では、この「安全コスト」を捻出することが極めて困難であり、警備は「贅沢なサービス」として後回しにされがちです。

 

課題2:テクノロジー導入の敷居の高さ

 

最新のAIカメラやセンサーといったICT技術は有効ですが、初期導入費用が高く、またその運用やメンテナンスにはIT知識が必要です。多くの介護施設には、IT専門職員を配置する余裕がなく、技術の恩恵を受けにくいのが現状です。

 

解決に向けた動きと今後の展望

 

こうした課題に対し、国や自治体も手をこまねいているわけではありません。一部の自治体では、防犯カメラや非常通報システムの導入に対する補助金制度が設けられており、特に介護ロボットや見守りセンサーといったICT機器については、介護ロボット導入支援事業として導入支援が行われています。

しかし、これらの支援は単発的、あるいは対象範囲が限定的であり、恒常的な警備員の配置費用など、継続的な「人件費」にあたる部分の支援は不十分です。

今後は、個々の施設の努力に頼るだけでなく、「安全」を公共的なサービスの一環と位置づけ、財政面での仕組みを確立していくことが不可欠です。施設側も、警備を単なる出費ではなく、「リスクヘッジ」であり「質の高いケアの担保」であるという視点から、機械警備と人的警備を組み合わせた最適なプランを追求していく必要があります。


 

結論:質の高い介護は「安全」の上に成り立つ

 

介護施設における警備は、もはや「オプション」ではなく、質の高い介護サービスを提供する上での「土台」です。この土台が揺らぐ時、どんなに献身的なケアも、利用者の尊厳ある暮らしも実現できません。

高齢者や要介護者の「安心」は、社会全体で守るべきものです。施設が、警備の専門家の力を借りて安全な環境を構築し、介護職員が本来のケア業務に集中できる体制を整えることこそが、少子高齢化が進む日本において、すべての国民の安心を守るための最も重要な一歩であると確信します。

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